短期大学部・総合文化学科 │ 聖徳大学

(163) 女性による大蛇退治

17.01.01

東晋の干宝が著した『捜神記』(4世紀)に、娘が大蛇を退治する話が載っています。

東越の国、閩中郡(福建省)に庸嶺という山がり、その山の西北にある洞穴に、長さ七、八丈、胴の周囲が十抱(かか)え以上もある大蛇が住みついていて、人に害を及ぼしていたそうです。

大蛇は十二、三歳の少女を食べたいと要求します。そこで、土地の役人は、毎年八月一日の祭りの日になると、奴隷の生んだ娘や罪人の娘を人身御供としてさし出していました。

十年目になったとき、李誕という男の家の末娘、寄が大蛇の餌食となることを買って出ます。李誕の家は娘ばかり六人いて、跡継ぎとなる男の子がいないことから、寄が心苦しく思い、両親の反対を押し切って大蛇の棲む洞穴へと出かけたのです。

寄は役人に、よく切れる剣と大蛇を噛む犬とを用意してもらい、八月一日に大蛇を待ちます。あらかじめ数石の蒸し米で団子をこしらえ、それに蜜と炒り麦の粉を混ぜたものをかけて、蛇の穴の前に置きました。果たして大蛇が大きな頭を出しました。大蛇の頭の大きさは米倉ほどもあり、目は直径二尺もある鏡のようだったそうです。

大蛇がこの米団子を食べている間に、犬に噛みつかせて、寄はうしろから切りつけて退治しました。洞穴からは九人の娘の髑髏が見つかったそうですが、寄はそれをぜんぶ持ち出すと、ため息をついて「あんた方は弱虫だから蛇に食べられてしまったのよ。ほんとうにお気の毒なこと」と言ったとあります。

越王がこのことを聞き、寄を召し出して后にしたそうです。

奇は、何とも勇ましい女性ですね。
ご存じのように、日本神話に出てくるヤマタノヲロチは、男神スサノヲノミコトによって退治されます。

出雲国鳥髪の老夫婦、アシナヅチとテナヅチには娘が八人いましたが、ヤマタノヲロチがやってきて毎年一人ずつ食べてしまい、残るはクシナダヒメだけになってしまいました。それを聞いたスサノヲは、クシナダヒメとの結婚を条件に、ヲロチ退治を老夫婦に約束します。

ヲロチは八つの頭と尾を持ち、その長さは谷八つ、山八つにわたっていたとありますので、『捜神記』の大蛇よりも巨大です。スサノヲは、度数の強い酒をヤマタノヲロチに飲ませて酔わせたところを十拳の剣で切りつけ退治しました。

それにしても、大蛇は食べ物やお酒に弱いようです。飲食を供し、大蛇がそれらを飲み食いしている間でないと太刀打ちできないといった話の設定に、怪物への畏怖の念が感じられますね。

蛇退治の話はユーラシア大陸に沢山ありますが、『捜神記』のように女性が大蛇を退治する話は珍しいです。越王が、美人であるかどうかよりも強く逞しい女性を后としたというオチも、醜くとも岩のように磐石なイハナガヒメを拒否したニニギノミコトとは真逆です。

さあ、『捜神記』の奇のように、今年も力強い一歩を踏み出しましょう。

(し)
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