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【コラム】 和顔施(わげんせ)

24.03.13

 プロボクシングヘビー級世界王座に長らく君臨したモハメド・アリの名を知る人は今や少ないであろう。3度の世界王座獲得はヘビー級史上初であり、通算19度防衛している。

 無敗で迎えた1971年3月8日、同じく無敗の王者ジョー・フレージャーとアリは対戦した。結果は、最終15ラウンドにダウンを奪ったフレージャーの判定勝ちだった(その後、両者は2度激闘を演じ、2度ともアリが勝っている)。アリは対戦相手を口汚く罵ることを常に作戦として用いていた。フレージャーに対しても、「のろま」「ゴリラ」などと挑発している。それには、単なる挑発だけに止まらない意図があった。

 貧しい家庭に育ったフレージャーは、母の言い付けによって白人社会に抵抗することはしなかった。アリは、フレージャーのそのような姿勢を体制の手先と印象付けるために罵ったのだが、そのせいで、フレージャーの子どもは学校でいじめにあったという。

 実は、ベトナム戦争への徴兵を拒否したためライセンスを奪われて苦境にあったアリを経済的に支えたのは、フレージャーだった。当時のニクソン大統領へも、ライバルの復帰を嘆願していたのである。

 こんな恩知らずのアリだったが、フレージャーへの罵倒を後年反省してもいたし、さらに、2011年に行われたフレージャーの葬儀には、パーキンソン病によって全身が震えるアリの姿もあった。

 リング上では「蝶のように舞い、蜂のように刺す」と評された軽快なフットワークを見せる一方、アリの言動には感心しないところが多かった。ところが、意外にもこんな言葉を残していたのである。

「他者への貢献は、この地球に住むための家賃だよ」

 以上は、3月8日付毎日新聞「アリが初めて敗れた日」(小倉孝保)に基づく(記事中での表記は「ムハマド・アリ」)。記事の趣旨は、保守とリベラルの対立という現代アメリカの抱える社会の分断にあるのだが、ここではアリの残した言葉に注目しよう。

 アリの言う「他者への貢献」を大袈裟に考える必要はない。仏教には、財物がなくても布施(他者への施し)ができる方法として、「眼施」「愛語施」「心施」など7つの布施(「無財の七施」という)がある。その中でも、最も簡便なものは「和顔施(わげんせ)」であろう

 身体による奉仕や金銭による施しが叶わなくても、誰にでも容易に出来る施しだ。和やかで穏やかな顔つきをして人に接すれば、決して悪い印象を持たれることはない。それだけでも、ささやかながら家賃の支払いとなり、他者への貢献となるのである。

 この春卒業された方々にアリの言葉とともにこの「和顔施」を贈りたい。


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