短期大学部・総合文化学科 │ 聖徳大学

(136) 限りある命の物語

15.07.07

古事記の世界で、神の子孫とされる天皇の寿命に限りがあるようになったのは、ニニギノミコトの結婚に原因があるとしています。天孫降臨神話で知られるニニギノミコト(太陽神アマテラスの孫)は、笠沙の岬で美しいコノハナノサクヤビメに出会い求婚します。彼女の父オオヤマツミは大変喜び、姉のイワナガヒメも添えてコノハナノサクヤビメをさし出しました。ところが、ニニギノミコトはイワナガヒメが醜かったので、父のもとに送り返してしまいます。父のオオヤマツミは大変恥じて、「娘を二人一緒に奉ったのは、イワナガヒメは石の如く磐石であるように、コノハナノサクヤビメは木の花が咲き誇るが如く栄えるようにと願ってのこと」と言い、「イワナガヒメを送り返したので、ニニギノミコトの寿命は木の花のようにはかないものとなるだろう」と言いました。古事記では、そういう次第で、今日に至るまで天皇の寿命が長くないとしています。

もし、ニニギノミコトがイワナガヒメも喜んで娶っていたら…。今頃、神も人間も死ななくて地球が大変なことになっていたかもしれません。それはさておき、神といえども、限りある命を選択したことになります。

これまた古事記に載る伝説ですが、垂仁天皇は、「時じくの香の木の実」を求めて、タジマモリを常世国に遣わします。しかし、タジマモリが常世国から戻った時、既に天皇は崩御していました。時じくの香の木の実は不老不死の実で、もし垂仁天皇が口にできたら永遠の命が得られたかもしれませんが、口にすることなく亡くなっています。

タジマモリは、持ち帰った時じくの香の木の実の半分を大后に献上し、残りは垂仁天皇の陵に供えて哭泣し、殉死したそうです。大后もタジマモリも、天皇が亡くなったので、時じくの香の木の実を食べても仕方がないと思ったのでしょう。やはりここでも天皇を始め人間の命は有限です。

『竹取物語』でも、かぐや姫は月に還る前、帝に不死薬を置いてゆきますが、帝はかぐや姫から貰った手紙と不死薬を富士山で燃やさせてしまいます。かぐや姫のいないこの世で永遠の命が得られても何の価値もないと思ったのです。不老不死になれるチャンスを帝は自ら放棄しています。

浦島太郎も玉手箱を開けてしまい、たちまちおじいさんになりました。その後、浦島神社に祀られたかもしれませんが、浦島太郎もこの世で永遠の生命が得られたという設定にはなっていません。

限りある命の物語は切なくて美しい。千年以上にわたって語り継がれてきた魅力は、きっとそんなところにあるのでしょう。

(し)
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