(57) 神様も嫉妬するのだから…②
12.11.12
さて、『うつほ物語』でも、入内した女性たちはやはり嫉妬します。藤壺の女御(=あて宮)という美しい女性に、東宮の寵愛を奪われた宮の君(源李明の娘)は、次のように言います。(以下、現代語訳はすべて意訳)
「東宮にとぉーっても愛されていても、あて宮はやーっぱり、秘か男って言うか、別の男に文(=手紙)を送っていらっしゃるわ!こんな風に秘か男をお持ちになるような人(=藤壺の女御)をも、東宮はまたとないほどお思いになり、大騒ぎしていらっしゃること!!」(国譲・上巻)[新編日本古典文学全集③62頁]
宮の君よりさらに上をゆく、嫉妬深い中宮さまも登場します。朱雀院の中宮(后の宮)は、「仁寿殿の女御」という女性にずっと嫉妬し続けます。藤壺の女御(=あて宮)と同様、仁寿殿の女御も源正頼の娘です。
「その仁寿殿の女(め)の子の子どもも侍るは。などすべてこの女の子どもは、いかなるつびかつきたらむ。つきとつきぬるものは、みな吸ひつきて、大いなることの妨げもしをり」 ※「つび」は女性器のこと。(「その仁寿殿の女御が産んだ女の子もいるのでしたね。どうして、この左大臣家(正頼家)の女子たちは皆、どんな秘所がついているというのだろう?そこにちょっとでもくっついた男を、みーんな吸い寄せて、大事なこと(梨壺の産んだ皇子を東宮にすること。)の妨害をするんだから!!!」)[新編日本古典文学全集③256頁]
あらあら、およそ中宮さまの口にする言葉ではありませんね。后の宮の仁寿殿の女御への憎しみは、増えることはあっても減ることはなさそうです。
「この仁寿殿の泥棒猫!!」(原文は「この仁寿殿の盗人…」。)[新編日本古典文学全集③264頁]
后の宮は、(仁寿殿の女御の近況などを)お聞きつけになり、仁寿殿の女御が自分の思いのままに皇子たちを引き連れ、わが物顔にふるまって、「なんとも癪だわ」とお思いになって…(国譲・下巻)[新編日本古典文学全集③291頁]
后の宮は、夫(朱雀院)に表面的には恨み事を申し上げないが、内心ではものすごく癪だわとお思いになること、この上ない。(仁寿殿の女御の妹である)藤壺腹の皇子たちは、みーんな死ねばいいのに(原文は「みな死ななむ」)!!ついには、(私の姪っ子の)梨壺腹の皇子を東宮にしよう、などとお思いになって…。后の宮が、仁寿殿の女御を「憎い」と思われることは、昔と比べようもないほどものすごい。どうにかして、憎み倒して、朱雀院のおそばにはいさせまいとお思いになるが、仁寿殿の女御は朱雀院の御座所に近い殿舎を二つ、三つほど賜ったので…[新編日本古典文学全集③330頁]
こんな汚い言葉を発する后の宮とは言え、原文ではしっかり尊敬表現が使われています。中宮さまはとても身分の高いお方なので、どのようなことを仰っても尊敬表現が使われるのです。
さて、宮の君も后の宮も悪口を言えば言うほど、夫の愛を失うことはわかっていても、どうにもできなかったのでしょう。
物語文学に登場する嫉妬に狂った女性の末路は悲惨です。あまりにも醜い嫉妬の感情は、なんとかコントロールした方がよさそうです。(つづく)