短期大学部・総合文化学科 │ 聖徳大学

(90) 三遊亭圓朝『怪談 牡丹燈籠』(6)

13.10.26

不快と偽って退出していた孝助を飯島が呼び出し、相川の娘との縁談を承知した旨を伝える。自分の意向を問うぐらいしてほしかったと恨むものの、手を突いて主人に謝られては仕方がない。取り決めだけはしておき、10年猶予が欲しいと孝助が言う。飯島には、なぜ孝助が自分の許を離れたくないのかが解せない。釣りを止めるよう、また、酒を飲むと正体なく寝てしまうから、ご油断召さるなと、孝助は主人の身を案じて訴え続けていた。

孝助が相川の養子へ出てしまえば、飯島の所が里となる。すると、孝助が息子のような気分になるだろうと恐れたお国は、孝助に不始末をしでかさせて追い出そうと画策する。愛人である源次郎の所に仕える相助(あいすけ)という若党が、相川の娘に惚れていることを利用して相助と孝助とを喧嘩させ、両成敗として双方を追い出そうというのである。

源次郎は、相川の娘と相助との縁組を自分の兄が進めようとしていたところへ、孝助が割って入ったと嘘をこしらえて、孝助を襲うよう唆す。相助は、亀蔵・時蔵という乱暴者を語らって、孝助襲撃の手筈を整えている。

翌日、相川邸で結納を済ませたが、故あって婚礼は来年2月まで延期したいと申し入れた。相川邸から一人で戻るように指示された孝助が、いつもと異なる道を通って無事に戻ってきたため、お国は驚く。だが、さりげない顔で殿様を迎えに行くよう言い付ける。今度は木刀を握って待ち構える3人と出くわしたが、手もなくひねり倒したところへ飯島が来合わせ、二人で邸へ戻ると、お国は2度びっくり。

翌朝、喧嘩を理由に相助に暇を出したが、孝助も同罪だろう、と源次郎がもちかけてくる。しかし、飯島は、供先を妨げた相助らが悪い、孝助は正当防衛だと主張する。さらに、亀蔵・時蔵ともに暇を出させるよう主家へ廻文を出すと言ったため、源次郎の当ては見事に外れてしまった。

何とかして孝助を放逐するか、殿様の手打ちになるような工夫はないかと思案を巡らしながら、お国がとろとろとまどろんでいると、誰か忍び込むような物音がする。地袋の錠を開ける音がしたため、行ってみたが誰もいない。見れば、お納戸縮緬の胴巻が外へ流れている。驚いて殿様の手文庫を調べると、胴巻にくるんであった百両が紛失していた。

そこで、たちまち一計を案じたお国は、孝助にこの罪をなすりつけようと考える。翌日、孝助を使いに出した隙に、若党源助を呼び、孝助の手癖の悪いことを吹き込み、孝助の文庫を持って来させる。調べるふりをしながら中へ胴巻を差し込むと、お国は大事な品をそこに発見したと言い、殿様の御前で皆の持物を検査すると息巻いた。

帰宅した飯島を前に、下僕・下女すべての所持品検査が始まり、ついに孝助の番になる。元より入れておいた胴巻だから、お国はこれ見よがしに差し上げ、孝助を詰問する。身に覚えはないから、孝助は頑として認めない。お国は、源助にも嫌疑を向け、二人で気脈を通じて行ったに違いないと決めつける。それで源助からも責め立てられるが、悔し涙を流しながら、覚えがないの一点張りである。

夕景に至ったら手打ちにすると飯島が言い放ったので、源助はしきりに詫びを入れるよう孝助を説得する。源次郎とお国の不義密通、及び中川で殿様を殺す企みの一部始終を手打ちの場で並べ立てるつもりでいるから、孝助には少しも臆する色がない。

お国にとっては、ついに邪魔者を除くことができると思っていたところ、飯島が紛失した百両を別の場所に置き忘れていたと言ってきた。下男・下女を集め、板の間に手を突いて詫びると、孝助に丁寧に詫びをするようお国に命じる。お国は不承不承それに従った。

金は出たが、しかし、胴巻の件はどうなったのか。その辺りは原文によって示そう。

国「孝助どん誠に重々すまない事を致しました、何(ど)うか勘弁しておくんなさいましよ。孝「なに宜しうございます、お金が出たから宜(い)いが若しお手打にでもなるなら、殿様の前でお為になる事を並べ立(たて)て死なうと思つて……。と急込(せきこ)んで云ひかけるを、飯島は、飯「孝助何も云つて呉れるな。己(おれ)にめんじて何事もいふな。孝「恐れ入ります。金子(きんす)は出ましたが、彼(あ)の胴巻は何うして私の文庫から出ましたらう。飯「あれはホラいつか貴様が胴巻の古いのを一つ欲しいと云つた事があつたつけノウ。其時おれが古いのを一つやつたぢやないか。孝「ナニさやうな事は。飯「貴様がそれ欲しいと云つたぢやないか。孝「草履取の身の上で縮緬のお胴巻を戴いたとて仕方がございません。飯「此奴(こいつ)物覚えの悪いやつだ。孝「私より殿様は百両のお金を仕舞ひ忘れる位ですから貴方の方が物覚えがわるい。飯「成程これはおれがわるかつた。何しろ目出度いから皆(みんな)に蕎麦でも喰はせてやれ。と飯島は孝助の忠義の志しは予(かね)て見抜いてあるから、孝助が盗み取るやうなことはないと知つてゐる故、金子は全く紛失したなれども、別に百両を封金に拵へ、此の騒動を我が粗忽にしてぴつたりと納まりがつきました。〈岩波文庫、89~90ページ〉

人情話の面目躍如たる好場面である。

(G)
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