短期大学部・総合文化学科 │ 聖徳大学

(23)『うつほ物語』と交易

11.12.03

(21)で青磁についてお話ししましたが、青磁のように海外からもたらされたものを「唐物(からもの)」と呼んでいます。

『うつほ物語』には唐物がたくさん登場しますが、それらの唐物は交易によって得られたものです。『うつほ物語』に描かれている、宮中の蔵人所(=校書殿の西廂にあり、図書・器物・銭貨・衣服などを納める倉がある所)の唐物を見てみましょう。

蔵人所にも、すべて唐土の人の来ることに、唐物の交易したまひて、上り来るごとには、綾、錦、になくめづらしき物は、この唐櫃に選り入れ、香もすぐれたるは、これに選り入れつつ、[内侍のかみ巻・新全集②274頁]

かの蔵人所の十掛には、綾、錦、花文綾、いろいろの香は色を尽くして、麝香、沈、丁子、麝香も沈も、唐人の度ごとに選り置かせたまへる、[内侍のかみ巻・新全集②275頁]

唐の使節が来るごとに唐物の交易をしていたとあり、来朝のたびごとに唐綾、唐錦、花文綾(=唐花文様を織り出した綾)、麝香、沈香、丁子香など、珍しい品々が献上されたそうです。それらの唐物が、蔵人所の唐櫃(=4本または6本の脚のある、大形の木箱。ふたがついていて、衣服・調度品などを収めた。)にたくさんあったことが分かります。

唐物は、朝廷にのみ蓄えられたのではありません。役人(貴族)は、私用としても、唐物を求めました。(21)の繰り返しになりますが、滋野真菅が使用していた「秘色の杯」は、彼が太宰大弐であった頃、交易で得たものと解釈されています。

中でも注目されるのが、故式部卿宮の娘である中の君が、必要な物を唐の交易船の商人から入手していたことです。

唐人の来たる頃にて、用ずるものせむとしければ、かかるものどもあれば、ありしやうに入れて持たまへり。(唐の商人がやってきた頃で、必要な物を買いたいと思っていたが、兼雅から数々の食料や衣料が贈られてきたので、兼雅が以前贈った金は使わずにそのままとっておかれた、という意)[蔵開下巻・新全集②571頁]

疎遠になっていた藤原兼雅が、中の君の困窮ぶりを見て、生活用品を贈ったことから、唐の商人から必要な物を買う必要がなくなったという場面です。それにしても、中の君は高級志向ですね。必要な物なら国産品で間に合いそうなものなのに、唐の商人から何を買っていたのでしょうか?

物語では、交易で唐物を入手することが宮家や貴族の日常生活に普通に出てきます。舶来品(唐物)への憧れは、『うつほ物語』でも例外ではありません。

【お知らせ】河添房江・皆川雅樹編『アジア遊学 唐物と東アジア』(勉誠出版 2011年11月)を読むと、唐物の研究の最先端が分かります。高校生の皆さんにはちょっと難しいかもしれませんが、ぜひ手にとってみてくださいね。

(し)
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