短期大学部・総合文化学科 │ 聖徳大学

(3) 『うつほ物語』の「うつほ」①(俊蔭巻)

11.07.03

『うつほ物語』の主人公・仲忠はもちろん貴族ですが、生活が苦しくなった時、京都の北山(架空の場所)で、母と「うつほ住み」を体験します。

「うつほ」とは(木の)空洞のことです。仲忠は、四本の杉の大木が上方で重なり合い、根元が空洞になっているところを住まいとしたのです。『うつほ物語』というタイトルは、この杉のうつほで、しばらくの間、母子が暮らしたことに由来します。

いみじういかめしき杉の木の四つ、物を合はせたるやうに立てるが、大きなる屋のほどにあき合ひてある

『竹取物語』のかぐや姫も、竹筒の中にいましたね。竹のうつほは、聖なる場所。そこに籠ることで、かぐや姫は竹の生命力を身につけたのかも…。

ところで、杉のうつほをご覧になったことはありますか?うつほは屋久杉(縄文杉)など、古くて大きな木に見られます。あまり人が住めるようには思えませんが、暗くぽっかりとあいた穴は不思議な感じがして、なぜか惹きつけられます。

富山県魚津市には、「洞杉」と呼ばれる、天然杉の古木が群生しているところがあります。木の幹が空洞になっている杉のあることから「洞杉」と呼ばれるようになったそうです。幹のうつほには樹神が宿っていそうです。洞杉に「なんのせ、いっぺん来てみられ」。(富山弁)

(し)

・新編日本古典文学全集『うつほ物語①』(小学館)76頁

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