心理・福祉学部 社会福祉学科 │ 聖徳大学

【JUST IN】第3回『福祉の役割と感染症コロナ』~考えましょう~

20.04.22

皆様こんにちは。

今回は、福祉の専門職、スクールソーシャルワークがご専門の横井先生が、新型コロナを通して、福祉×学校について一緒に考えていきたいと投稿してくださいました。その中で「学校内における社会問題」とはどのようなものか、学校と関係する機関や家庭、また、養護教諭やカウンセラーと共に子どもを支えるスクールソーシャルワーカーの仕事と学校現場のリアルについても教えてくださいます。

「子どもを助ける仕事がしたい」、「子供の悩みを軽減したい」、そういって聖徳大学の社会福祉学科の門をたたく学生はとても多く、4年間、資格や仕事の枠を越え、できる限りの知識や技術や経験を手に巣立っていきます。学校現場を含め、孤立が叫ばれる現代社会においてしなやかに人や社会を繋ぎ、問題解決をしていくのには、枠にはまらず意欲のまま学ぶこと、これもまた必要なことなのかもしれません。少しの間、学校にある社会問題や自分の勉強したいことについて一緒に考えてみませんか。

 

新型コロナ感染防止とスクールソーシャルワーカーのはたらき

社会福祉学科 准教授 横井葉子

 

子どもが表出する辛さのサイン

大学生のみなさん。みなさんには、小学生から高校生くらいまでの時期に、学校に通うことが辛くなったり、友だちからのいじめやからかいに悩んだりした経験はありませんか。また、親との関係や家庭内の不和、親の失業や減収、家族の病気や介護などに人知れず心を痛 めた経験はないでしょうか。乗り越えてきた小さな経験を含めれば、「経験しなかった」と いう人は少ないと思います。 私たちは、人生で経験するこうした出来事を、親の適切な関わり、学校の先生の理解と配慮、友だちの支えなどによって乗り越えます。しかし、こうした環境が何らかの事情によっ て整わないために、辛さに耐えることが限界となってしまう場合があります。そのような場 合、人は何かの形でサインを表出するものです。子どもの場合は、非行、リストカットなど の自傷行為、「死にたい」という気持ちを SNS に書きこむなど。あるいは無気力になったり、不安で立ち歩いたり、友だちをいじめたり暴力を振るったり、まわりから見れば「問題」と思われることをするかもしれません。多くの場合、朝の登校時間に起きられなくなったり 教室に入れなくなったりして、遅刻や欠席も増えていきます。こうして、子どもが教育を受ける権利が妨げられていきます。

 

学校現場で子どもを支援する福祉の専門職

このような状況にある子どもやその保護者に対して、学校の先生方とともに子どもの悩みや困りごとの本質を探り、子どもの気持ちや願いにもとづいて家庭、学校、地域などの環境の不具合を改善することで子どもを支援する専門職がスクールソーシャルワーカーです。 私は、このスクールソーシャルワーカーの仕事に 10 年余り従事してきました。 スクールソーシャルワーカーは、都道府県や市町村が教育委員会や学校に配置している 福祉の専門職で、社会福祉士・精神保健福祉士の国家資格を持つ者の中から選考するものとされています(文部科学省)。子どもや保護者と会って相談したり、学校の先生と話し合っ たり、関係のある行政機関や医療機関等と交渉したり会議をしたりする、フットワークやコ ミュニケーションが必要な仕事です。子どもや親にとっては学校の先生とは異なる立場で 味方になってくれる、学校の先生にとっては家庭と学校と外部の機関をつないでくれる、外部の機関にとっては立ち入りにくい学校の内側で調整役を果たしてくれる存在です。スク ールソーシャルワーカーが関わることで、学校の集団の中に埋もれがちな子どもの「リスク」 が顕在化し、個別的な支援のネットワークが促進されます。 比較的新しい職種であるため、スクールカウンセラーとくらべて数も少なく、広く知られ てはいませんが、やりがいのある仕事です。

 

養護教諭との連携と役割分担

ここまで読んでお気づきになった方も多いと思いますが、スクールソーシャルワーカー の役割には、学校の保健室で働く養護教諭と共通する部分があります。養護教諭は、職務の中心である救急処置や健康相談を通じて、子どもたちの不安や無気力、自分や人を傷つけた くなる気持ちに寄り添い手当をし、教室に入れない子どもや登校できない子ども、いじめで 孤立した子ども、親からの虐待に苦しむ子どもなどの「安全基地」となります。こうした基本姿勢が、養護教諭とスクールソーシャルワーカーには共通しています。また、保護者の相談に応じる機会が多いこと、学級担任とは異なる立場で子どもと接すること、子どもの支援に向けて校内のコーディネートを行う役割があることも似ています。そこから、両者の協力関係が重要であることがわかります。 スクールソーシャルワーカーは学校の職員に位置づけられていますが(学校教育法施行 規則第63条)、一つの学校に常駐していないことが多いため、子どもにとって身近な存在で学校中の情報が集まる位置にいる養護教諭との連携と役割分担はとても大切です。スク ールソーシャルワーカーはまず養護教諭から子どもの遅刻・欠席や最近の様子、校内の出来事などの情報を得てから仕事を始めます。働きかける対象を子どもと保護者、校内と校外で分担したり、心の問題と社会的な問題で分担したりすることもあります。お互いに専門性を 分かち合い、チームで仕事をするパートナーなのです。

 

新型コロナ感染防止のための休校で試されること

ご存知のように、緊急事態宣言の全国拡大を受けて、新型コロナ感染拡大防止のための休校が広がっています(2020 年 4 月 20 日現在)。先生方は子どもの教育保障と命の安全のはざまで揺れながら、年間計画の変更に追われています。学校というのは本来、教科を教えることのほかに、生活習慣の指導、保健室での健康チェック、温かい給食による栄養など、子 どもの福祉に直結する多くの機能を持っています。特に義務教育の小中学校は、その地域に 住むほぼ全員の子どもを学籍によって把握し、毎日子どもの安否を確認できる貴重な場です。それらの福祉的な機能のほとんどが休校によって縮小を余儀なくされています。一人ひ とりの子どもたちが抱える「リスク」が、学校から見えにくくなりました。そのために、事態が進行していまい、深刻化を防げないことが心配されます。 スクールソーシャルワーカーは人と会って話すのが基本ですから、人との接触を避けな ければならない現状では仕事になりません。それだけに今、対面できない中で、子どもや保護者、養護教諭を含む学校の先生方、関係機関がつながる仕組みをどのように作り出すかが 問われています。そのためには、電話やインターネットといった手段の工夫はもちろんですが、何よりも「今まで築いてきた関係が本物だったか」が試されると思います。もしもこれ までに揺るぎない関係を相互に築けているなら、新しい方法や仕組みはきっと編み出せる はずです。 専門的な援助関係や連携について学ぶ社会福祉学科のみなさん、本物の援助関係、本物の連携とはどのようなものか、一緒に考えてみませんか?

 

横井先生のプロフィール

大学の社会福祉学科を卒業後、障害者や高齢者を対象とする福祉サービスに従事。2009年からスクールソーシャルワーカーの仕事に就き、研究活動と並行させてきた。この4月より聖徳大学に着任。3年生担任。研究テーマはスクールソーシャルワーカーの実践能力。

最近のマイブームは、南イタリアのシチリア料理をいただくこと。パスタが好きです。文化が交差するイタリアの食文化はとても複雑で豊かです。今はそんなイタリアの人々が(世界中の人々が)コロナウィルスと闘う困難に心を寄せています。また、レストランの方々もテイクアウトなどを始められて感染防止のために工夫されているので、そうした営みも応援しています。

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