心理・福祉学部 社会福祉学科 │ 聖徳大学

【JUST IN】第4回(前編)『福祉の役割と「感染症コロナ」』~考えましょう~

20.04.24

皆様こんにちは。

今回はこのリレー投稿の初回を担当してくださった、北川慶子先生が諸外国のコロナの現状を2回に分けて伝えてくださいます。北川先生は国際的な研究も数多くされ、海外の情勢にも明るい先生です。普段NEWSでは国内の事や海外でもヨーロッパやアメリカ、東アジアなどの事が多い中、全世界的なコロナとの戦いのあまり知らない国の今を届けてくださいます。

アフリカのウガンダをはじめ、ネパール、モンゴル、タイの現状を取り上げ、各々の国の対応を知る中で、私たちは、その国の福祉や社会保障を比較して見る目が養われることでしょう。各々の国の対応の違いはその国のこれまでの歴史や過去の経験からもたらされていて、過去からの学びを活かし、この困難な状況に戦っていることが分かります。
加えて、全世界的な広がりを見せたこのウイルスで、私たちは各々の国は独立してあるものの宇宙船地球号(地球は1つの共同体)なのだということを改めて実感します。普段の生活の中では意識できなくても、社会は漠然として捉えにくいですが、名もない誰か、知らない国で起きていることが私たちに影響を与え、また私たちの行動が誰かやほかの国に影響を与えていることを感じます。さぁ、各々の場所で、世界や社会を見る目、名前も知らない誰かに想いを馳せてみませんか。

 

「「コロナウィルス」後に見えてくる社会福祉とは」

社会福祉学科 教授 北川慶子

昨年12月末に中国で新型ウイルスが最初に発生して以降、4月17日までに193の国・地域で計220万を超える感染者数が確認され、48万3000人が回復しましたが、15万人以上が死亡しました(世界保健機関:WHO)。

予想だにしなかった新型コロナウィルス感染の拡大化で、わが国でも4月16日には、これまでの7都府県に発出されていた緊急事態宣言の対象地域が全国へと拡大されました。私たちは、「感染するかもしれない」、「感染させるかもしれない」というこの二つの感染危機が身近に迫ってきたことを感じます。

外出を控え、三密(密集、密閉、密接)を控えることが、いよいよ切実感を帯びてきました。5月6日までの2週間、春休みとも夏休みとも異なる「休校」のこの期間が、私たちに大きく社会を見る目を見開かせることでしょう。

「Stay Home」、「Stay Safe」は、世界共通の言葉となりました。時間の過ごし方や外出時のリスク管理は、私たち一人一人の思慮が行動に現れることによって評価されます。社会福祉の専門職になるということは「持てる力を表現する」ということが最も必要であり、これが実力として行動に現れることを知っておきたいですね。この2週間は、自分に必要なあらゆる力を磨くための準備期です。こうした気持ちでこの期間を過ごしてください。

今、パンデミックとなったコロナウィルスの感染者の拡大防止のために世界中の多くの国・地域で緊急事態宣言(諸外国では非常事態宣言というのが一般的です)が発出されています。かつて福祉先進国のモデルとしてきた欧米先進国の コロナ対策は当然のこととして、社会保障・社会福祉が未成熟のアジア・アフリカ・南米などの国々が、どのようなコロナ対策をとっているかにも注目してみましょう。

諸外国の中で、最も早く非常事態宣言が出されたのはイタリアの 3月9日でし た。その後、3月中旬までにヨーロッパ、アメリカ、中東、アジア、アフリカの27か国で非常事態宣言が発令されています。日本より数週間早かったのです。

私は、アフリカの中東部のウガンダ(Uganda)の農業人材育成 NGO のメンバ ーです。いつも現地のことが気がかりで、現地の理事長と連絡を取り合っています。ここでも最初の感染者が出た3月23日の翌日には緊急事態宣言が出されロックダウンが実施されました。それから現在までのコロナウィルス感染者は国全体で55人です。

 

ウガンダはナイル川の源流であるヴィクトリア湖のある常春の美しい国ですが、 世界第14位(年間 711ドルで生活している国)の貧困国で、貧困ライン以下で生活する人口が全人口の約 31%を占めています。私が現地の理事長にアフリカで最初に感染者が出たエチオピアの話をし、日本の状況を伝え、まだ感染者が0のうちから注意するようにと話していた矢先に最初の感染者が発生しました。まだ市中感染にはなっていません。この国で、急ぎ非常事態宣言が出されたのは、36歳の外国からの帰国者が感染し、死亡したことも政府の対策を動かした一因だと思われます。 国家保健システムも十分ではないために、コロナ感染者が増大すれば医療機関の対応能力が圧迫され、検査はおろか医療も十分受けられない人たちが大量発生する危険性があると判断されました。すぐさま国境を閉鎖し、感染者の国外からの流入を阻止する策がとられました。天然資源も豊富な国で、アフリカの穀物倉庫といわれるほどの農業国ですが、高度の人的資源が不足する国であり、またエイズの発症を経験している国ですからこそ対応が早かったということもできるでしょう。

ただ、豊かな農業国であっても国民の多くは貧しく、栄養知識にも乏しく、食事が偏ったり、調理法が不適切だったりで栄養不良の子どもが多くみられます。また、 ナイルの源流の美しい水源の国にありながら、清潔な水が十分に家庭にはないという厳しい環境下の人たちが大多数を占めています。長い道のりを経てヴィクトリア湖まで水を汲みに行くのが子供たちの日課だという地域もあります。水を汲みに行った子供がワニに命を奪われたという話も遠い昔のことではありません。この現実を知れば、この国が今後何に取り組んでいかねばならないかがすぐさま見えてきます。公衆衛生等も社会保障制度も不備な国です。感染者が多く発生し、経済活動が低下し、医療を受けられない人が多くなれば国家の危機にもなりかねません。よって非常事態宣言で国民の社会活動を拘束し、人の命と将来の経済活動の低下を防止するという策をとっているのです。今、外出もできず、教育も技術指導も対面ではできませんが、幸いモバイルの普及などIT化は、この国でも進んでいて、すべてではありませんが、オンラインでの仕事や学習を可能にしています。急激に経済発展を遂げつつある途上国の縮図ともいえます。それは、他の途上国でも同様です。

 

ネパール(Nepal: 第25位・890ドル)でも4月15日に非常事態宣言が発せられ、3月20日から4月30日までロックダウンとなり、これが延長されるかもしれないという状況です。4月16日には、感染者は国外からの帰国者16人(1名の死亡者)でしたが、20日現在約2倍近くの31人に増加しました。ただ、インドとの国境だけは一部開いていますので、これにより感染者の拡大が懸念されていますが、市中感染は防ぐことができています。ネパールでは、外出も制限され、小学校から大学など も含め教育機関は閉鎖されています。子どもたちは家の中での生活を余儀なくされていますが、そこには動画で遊んだり、動画を配信したりと親子で遊びを工夫しながら楽しんでいる様子も垣間見ることができます。大学の中には、例えばトリヴヴァン大学などのように3月からの休校で、そのまま夏休みに移行する措置をとっているところもあります。しかし、カトマンズ大学のように、大学も大学院もすべてオンライン授業を行い、5月末の卒業を前にした修了試験のプレゼンテーションもオンラインで行っています。アジアの中でも貧困国に数えられている国ですが、教育の分野へのIT導入は随分進んでいます。(写真は家庭での子供の様子です。)

ネパールは2015年に大地震に見舞われました。私もその災害復興支援に少し関わってきました。まだまだ復興の途上です。自然災害(地震)で大きな被害を受け立ち直ろうとしている矢先に、突然、コロナウィルスという感染症が発生しました。 国立大学で唯一産科があるトリヴヴァン大学では、産科病院はまだ完全復旧していませんので、そこには不便さと妊産婦への感染への危険があります。医療人材と防護用品の調整に限りがあるために、その対応の大変さは想像以上です。自然災害と人的災害(コロナウィルスの感染)の「二重の災害」に見舞われているともいえます。「災害大国」と言われ、自然災害の多いわが国が最も注目すべき事例がこの自然災害と感染症に取り組むネパールだとも言えます。危機管理(クライシスとリスク)をこういったところからも学ぶことができます。(すべて数字は4月20日現在のもの)

 

 

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