短期大学部・総合文化学科 │ 聖徳大学

(1) 『うつほ物語』桜に書きつけた歌(春日詣巻)

11.06.23

『うつほ物語』(平安時代の長編物語)の主要登場人物の一人である「忠こそ」は、「あて宮」という美しい姫君を垣間見て、彼女を好きになります。あて宮が、父・源正頼や一族とともに春日大社に参詣した折のことでした。

忠こそは、あて宮に恋するあまり、散り落ちる桜の花びらに、爪もとから血を滴らせて、歌を書きつけます。

憂き世とて 入りぬる山を ありながら いかにせよとか 今もわびしき

そして、その花びらをあて宮がいる所の後ろのほうに、押して張りつけて立ち去ったのでした。

自分の血で歌を書きつけた行為にまず驚きますし、あの小さな桜の花びらに一字一字書きつけたのでしょうか。それとも一枚の花びらに三十一文字を書きつけたのでしょうか。

もし、あなたがあて宮だったらどうでしょう。舞い落ちる桜の花びらに歌を書きつけることはとても風流だけど、血を滴らせたものだとなると…。もらってもあまり嬉しくないかもしれません。

でも、忠こそは、本当にあて宮に強く心を惹かれたのですね。

(し)

・室城秀之編『うつほ物語』(角川ソフィア文庫)79頁

【おまけ】『伊勢物語』第24段には、ある女が自分の指の血で岩に歌を書きつけて絶命する場面があります。

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