【コラム】“絹”のおはなし(その1)
22.06.01
以前このコラムで動物繊維の「“毛”のおはなし」をいたしましたが、今回は動物繊維のもう一方の雄である「絹」についてのお話しをしましょう。
絹織物は虫の吐く糸から作っています。その中でよく知られている桑の葉を食べて、白い繭を作る虫を家蚕(かさん)といい、5,000年以上前から中国で飼われはじめ、工夫を重ねて、虫の家畜化に成功(蚕の数えかたは虫の「匹」ではなく「頭」を使います)したもので、とてもしなやかで美しい糸を採る事が出来ます。
ところが世界の野山には、みの虫のように袋状の巣を作っているものが沢山います。それぞれ上手に住み分ける為に虫によって食べる葉が違います。また繭の形や大きさ、色なども様々です。これを総称して野蚕(やさん)といい、それから繰糸された糸を野蚕糸といいます。
代表的な野蚕の種類を紹介しますと、
①天蚕(テンサン)【山繭・(ヤママユ)】は日本を原産地としており、飼料植物はブナ科のクヌギ、ナラ、カシワ、カシなどです。幼虫の期間は約50日で、4回脱皮して営繭します。飲水の習性があり、一化性で完全変態します。天敵となる害虫はアリ、ハチ、クモなど、害鳥はスズメ、ヤマガラ、ヒバリ、モズなどです。繭色・糸色はフラボン系色素に由来する緑色で、シャリ感があり、品の良い独特の艶があります。主に高級和装用やショール等に利用され、「繊維のダイヤモンド」「繊維の女王」と呼ばれています。
②柞蚕(サクサン)の原産地は中国で、遼寧省が一番多く、山東省、河南省が続いています。飼料植物は天蚕とほぼ同じで、二化性で完全変態します。天敵となる害虫や害鳥も天蚕と同じです。繭色・糸色はうす茶で、シャリ感があり、光を乱反射吸収し、独特の艶があります。古くから繭紬として和装材に利用され、現在は、ニットや洋装材として多用されています。
③エリ蚕(ヒマ蚕)の原産地はインドのアッサム地方で、インド北部、ベトナム、中国南部で飼育されています。飼料植物はヒマ、シンジュなどです。幼虫の期間は20日、4眠5齢で営繭し、多化性で完全変態します。繭色は白が多く、製糸(繰糸)できないので絹紡績原料として使用され、マフラーや綿との混紡用品に使用されています。
④タサール蚕(インドサクサン)の原産地はインド北東部で、(シナ)サクサンに類似しています。飼料植物は樫系広葉樹の葉で、繭色は茶〜グレイ、糸色はうす茶で、繊度は太く節があります。シャリ感もあり、光を乱反射吸収し独特の光沢があります。インドシルクとして親しまれ、ショールから洋服、インテリア用品にまで世界中で幅広く使われています。
⑤クリキュラ蚕(黄金繭)は、インドネシアを中心とした熱帯~亜熱帯の諸島に生息します。日本では黄金繭として一時話題になりました。クリキュラ蚕は現地では「ドンドン」と呼ばれ、マンゴウ、アボカド、カシューナッツなどの葉を食べる害虫でもありますが、日本野蚕学会、ジョグジャカルタの王室、ガジャ・マダ大学などの協力により、繭から糸を作ることが出来るようになりました。
その他、ムガ蚕やアタカス蚕(与那国蚕)などたくさんの野蚕があります。
家蚕繭及び野蚕繭の特徴をご覧ください。その中に繭糸繊度という項目があります。繊度は繊維の太さのことで、絹繊維の多くは天然繊維では稀なフィラメント(長繊維)糸で、デニール(d)で示されます。デニールは9000m(常磐線でいえば松戸駅から南柏駅まで距離)の長さに対して、繊維の重さが1gありますと1デニールになります。9000mで100gあれば100デニールという恒長式番手という表し方で、デニールは数が多くなれば糸は太くなります。
因みに、紡績(短繊維)糸である綿糸の太さは番手(英国式綿番手)よって示されます。1ポンド(453.6g)の重さに対して、綿糸の長さが840ヤード(768.1m)あれば1番手という基準を定めています。1ポンドの重さで糸長が8400ヤードあれば10番手という恒重式番手という表し方で、番手は数が多くなれば糸は細くなります。
なお、繊維の太さの表示は、現在ISOで規定されたテックスを使用しています。恒長式番手で糸1000mの長さで重さが1gならば1テックスです。しかし、従来のデニール表示と対比しやすくするため、繊維製品の表示にはデシテックスを使用する場合が多いです。
参考文献:総合蚕糸学(福田紀文監修・日本蚕糸学会編)
:野蚕(日本野蚕学会)
:https://www.akasaka-trevi.jp/aboutsilk/
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