短期大学部・総合文化学科 │ 聖徳大学

【コラム】 三浦庄司

25.03.26

 NHK大河ドラマが、「光る君へ」から「べらぼう」へ、平安時代から江戸時代へと舞台が転じた。2年連続で戦闘シーンが見られないと不満げな中高年の男性に比べて、主人公蔦屋重三郎を演じる横浜流星に対する女性の人気が高いようである。その蔦重については、単行本・ムックがおびただしく刊行されているから、ひとまず措く。ここでは、原田泰造演ずるところの三浦庄司の逸話を、三田村鳶魚が引用した加藤曳尾庵(えびあん)『我衣』を孫引きして紹介しよう。

 三浦庄司は、田沼家の公用人であり、権門とて三浦を通じなければ、田沼への取り次ぎが出来なかったというほど、重用された人物である。以下、現代語に直して示す。

 明和・安永・天明の頃、時めいた田沼意次侯の用人三浦庄司は、備後の国の生まれで、幼少から胆力があり聡明だった。弟が2人、うち1人は高野山の僧となり、末弟が家嫡となる。庄司は壮年の頃に大和上市の縁者の許で遊客となり、鬱々として諸事心に任せなかった。弟と同様に僧になろうかと考え、ある日市中の占い師に運勢を問うたところ、江戸へ出て武士となれば、大層な富貴になるはずだと言われて江戸へ出る。芝辺に家を借り、軍学を講じることとした。

 その頃、田沼侯はまだ3000石だったが、寵臣井上伊織が庄司を推挙し、田沼家に召し抱えられるようになる。庄司は、人心を測ることに神妙であったため、そこから20年間に9回も昇進した。それでも、家中では誰一人謗る者がない。後に公用人の上席として、何事も庄司の思うがままとなった。

 その当時は、諸家から音物(いんぶつ)(=賄賂)が山のように届いた。うっかりこれを受け取ると、贈った物以上の望みを言ってくるので、物を貰うことに大変迷惑したという。今、世間ではそれを恐ろしい奸智のように言うが、(当時の習慣として)それほどのことでもなかった。

 ある人が、莫大な贈り物を庄司にして、莫大な願い事をしてきた。難儀した庄司が言うには、「何某(なにがし)殿(=贈り主)は主人(=田沼)の娘婿であるが、これまで2000石を貰っているし、今後も加増があるだろう。今でなくても、また機会があるはずだ」と告げたところ、何某殿は賄賂が少ないため、このように言うのだと心得て、さらに多くの物を贈ってよこした。

 弱り切った庄司は、「自分が取り持ってやれば立身・加増が叶うと思うのは仕方がないが、難儀なことだ」と思い、ここから左の足が曲げられないと偽り、諸侯に面会することを止めた。しかし、庄司がいなければ用が済まない。やはりそのままで出仕せよと言われ、主人の前でも片足を投げ出したまま用談し、据え風呂まで片足で入れるように造作した。こうして2年を経たある時、田沼侯から仮病にちがいないと見抜かれたため、病の発端を語り、仮にも主人を欺いた罪を謝して謹慎すること3日後には、左足は元に戻っていた。

 ある時、さる大名から茶席に参るようにとの招請があった。断るわけにはいかない。しかし、茶道を知らないから、名高い茶人を招いて2晩稽古し、ようやく当日の茶会に間に合わせた。庄司が茶を始めたと聞き、方々から茶器の贈り物が山のように届く。それ以前に、自身で始めようとした時にも、会席に必要な茶入れ・茶碗を始めとする茶器1品につき50種ずつ揃えたというから、その富貴の程が知れよう。

 美食美味のせいか、後に中風を病んで左半身が不随となった。それを自身で療治しようと決心し、不自由な左側の腰に真鍮銭を掛け、500目程の鉄の棒を挟み、さらに足にも銭を掛ける。日々重さを増して歩行する。左手で膝を叩き、拍子を取りながら経を唱える。少し快気を覚えると、しまいには金1両2分に相当する銭を掛け、2年後には全く平癒した。〈三田村鳶魚『江戸人物談義』―中公文庫―141~143p〉

 高価な茶器を数多く買い揃える財力にも目を見張るが、脳卒中のリハビリを自身で完遂してしまうとは、誠に恐れ入った根性である。鳶魚は「これは全く庸夫のことではない」と評した。それと同時に、「かかる逸物を御する田沼主殿頭(とのものかみ)もまた、容易ならざるべからず」と言い、悪評の高い田沼をも端倪すべからざる人物と見ている。

 本ドラマでは脇役に過ぎない三浦庄司であるが、こんな逸話が背景にあることを知ると、ドラマの楽しみ方も変わるかもしれない。(G)

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