短期大学部・総合文化学科 │ 聖徳大学

(6)『うつほ物語』の天人①(俊蔭巻)

11.07.21

『うつほ物語』は、清原俊蔭(きよはらのとしかげ)の一族の物語です。以前、藤原仲忠を物語の主人公として紹介しましたが、正確には、俊蔭・俊蔭の娘・仲忠・いぬ宮の四代にわたる、秘曲伝授の物語です。

さて、物語は、俊蔭が遣唐使として唐に渡る途中、船が難破し、波斯国(=ペルシャ)に漂着するところから始まります。俊蔭は二十三年もの間、波斯国で過ごすことになりますが、そこで異形(いぎょう)の者たちに出会います。波斯国の西方で出会った「七人の人」も、実は人間ではありません。お母さんは「忉利天(とうりてん。須弥山の頂上で、帝釈天の住む城がある)の天女」ですから、「七人の人」は天人です。

この「七人の人」の第一番目の天人は、年齢が三十歳ぐらいとあります。

歳三十ばかりにてあり。 [新編日本古典文学全集①31頁]

えっ?天人にも年齢があるんですね。『竹取物語』では、かぐや姫の故郷である「月の都」の人は、永遠に年をとらないとあります。
「かの都の人は、いとけうらに、老いをせずなむ。…」(あの月の都の人は、とても清らかで美しく、歳をとらないのです。)

なるほど、天人もいろいろあるんですね。平均寿命が今より短い平安時代は、四十歳から長寿のお祝いをしていたので、三十歳だと働き盛りの壮年をイメージしたらよいでしょうか。

この「七人の人」たちは、俊蔭が日本に持ち帰る琴(きん。七絃の琴)に自分の手首の血を滴らせて、琴の名前を書きつけています。

かの国まで持て帰るべき琴には、をのがたぶさの血をさしあやして、琴の名を書きつく。 [新編日本古典文学全集①38頁]

ええっ?天人にも血が流れているんですか?そういえば、手塚治の『火の鳥』も、火の鳥の血を飲むと不死になれるという設定でしたね。

「血も涙もない」という言葉がありますが、やっぱり天人も、あったかい血が流れていた方がいいのかなぁ…。

(し)
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