短期大学部 総合文化学科

(5) 『うつほ物語』老女の恋①(忠こそ巻)

11.07.14

『うつほ物語』の忠こそ巻には、「一条北の方」が登場します。もとは、左大臣「源忠経」の妻でしたが未亡人となり、同じく伴侶を亡くした右大臣「橘千蔭」に言い寄ります。一条北の方は五十余歳、千蔭は三十余歳です。そう、これは、いわゆる「老女の恋の物語」です。

一条北の方があまりにも熱心にアプローチするものだから、千蔭は気が進まないけれど、付き合うようになります。

交際期間中のことはいずれお話しいたしますが、この一条北の方は千蔭とその息子に対してとんでもないことをしてしまいます。当然、待っていたのは破局でした。

一条北の方は千蔭と別れたくありません。だから、イチかバチかの賭けに出ました。今までもらった恋文をすべて千蔭に返します。

沈(=沈香で作った箱)の箱一具にとり集めて入れて、大殿(=千蔭)に奉れたまふとて、よろづの悲しげなることを書き集め、… [新編日本古典文学全集①245頁]

一条北の方「せめていただいたお手紙だけでも、千蔭様の形見と思っておりましたが、私はもう長くないと思われますので、生きている間にお返しいたします」。

この気持ち、わかりますか?老女は必死で愛を取り戻したくて、もらった手紙を突き返すことで、男の気を引こうとしたのです。千蔭に愛が少しでも残っていれば、驚いて、一条北の方を訪ねたことでしょう。

でも、千蔭は、もう「一条」という言葉も耳にしたくなかったし、女の顔も見たくありませんでした。だから、これ幸いと、一条北の方からもらった手紙をすべて送り返したのでした。

白銀の透箱(=すかしのある飾り箱)二つに、この北の方の御文ども、浅茅つけたりしよりはじめて、返したてまつれたまふ。北の方、心細きこと限りなし。 [新編日本古典文学全集①246頁]

もうおわかりですね。千蔭の書いた手紙は沈の箱「一つ」に収まったのに対し、一条北の方のは透箱「二つ」もありました。一条北の方は、千蔭の倍、手紙を送っていたことになります(箱の大きさは不問といたしましょう)。

このお話からわかること。別れの予感があっても、男性からもらったものを返してはいけません。「別れ」が決定的になります。ましてや、もらったメールを厭味ったらしく、「あの時こう言ってくれたよね」と、もう一度送り返したとしたら、相手は逃げていくこと確実です。

それに、女性はちょっとしたことでもメールを送りがちですが、男性からの返信があまりないようでしたら、今後のことを考えた方がよいかも…しれませんね。

(し)

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