<現在の研究紹介>
19.05.22
<現在の研究紹介> 社会福祉学科 山田千香子
「住み慣れた地域を終の棲家とするために ー長崎県の小さな島の取り組みからの考察-」
現在、日本社会が直面している少子高齢社会の課題として、高齢化・過疎化が共に進む地域の高齢者のウェルビーイングや孤立の問題があります。
現在取り組んでいる研究は、高齢化・過疎化が急激に進行し病院がなく診療所が一か所のみである離島において、住み慣れた地域で暮らし続けるための人々の取り組みに注目し、人々が住み慣れた地域をどのようにイメージしているのか、どのような事柄をウェルビーイングとして考えるのか、また、地域に住み続けるためにどのような実践を行ってきたのかについて、10年来、調査研究を進めています。
厚生労働省によると国民の60%以上が自宅で最期まで療養したいという思いをもつ一方で、現状は病院や高齢施設での死亡割合が8割以上であり、自宅は12.6%(2010年)です。1950年から2000年の50年間で、自宅から病院へと変化しました。そして、近年、医療費の高騰を背景に、国は看取りの場所を病院から在宅へと転換する政策を打ち出しました。施設中心の医療・介護から、可能な限り住み慣れた生活の場において必要な医療・介護が受けられ、安心して自分らしい生活を実現できる社会を目指しています。 これに対し都市部では、さまざまなインフラを活用した取り組みが行われています。しかし、高齢化が進み介護力・専門職の不足等、在宅医療を支える社会インフラの不足が生じている離島において人生の最期をどのように過ごすかといった問題は、都市型のシステムでは解決しがたい問題を抱えることになります。
一方で、離島における強みは、一般的な都市型社会において高度経済成長期や高度情報化によって失われてきた、伝統的な共同体基盤、地縁を基盤とした地域共同体が比較的維持されている事にあります。そうした中、長崎県北松浦郡小値賀町では、伝統的な共同体基盤が残っており(まつり、講組織など)、現在も地域共同体が維持されている場所です。実際に小値賀町は、長崎県下で「自宅での看取り」割合が最も高い行政体です。その実践には診療所の2名の医師体制の努力とともに、島における「看取りの文化」の背景があります。
終の棲家を選ぶということは、自らの生き方を選ぶということにつながります。可能な限り住み慣れた地域で医療や介護が受けられ、安心して自分らしい生活ができる、そしてそれを自ら選択できるということが理想的なあり方ではないでしょうか。現段階では、「終の棲家」を「高齢者が最期まで安心して生活できるような地域社会」と捉え、そうした地域社会の事例について考察しています。
(写真:島にある世界遺産「旧野首の天主堂」)