人間栄養学部・人間栄養学科 │ 聖徳大学

塩分濃度(その2) モルの話

18.08.29

ちょっと間が空いてしまいましたが(その1)のクイズの解説です。
水1Lに、食塩1gと砂糖1gを溶かしました。
塩味、甘い味、どちらが勝っているでしょう。
 

答えは「塩味」!!!

理由は、同じ重量なら、食塩のほうが砂糖より「たくさんの粒」で存在しているから。

化学で習う「モル」を理解しましょう。
モルは、国際単位の定義によると、「12グラムの炭素12(12C)の中に存在する原子の数と等しい要素粒子の数」となっています。1モルに含まれる構成要素の数を、アボガドロ定数といい、6.022×1023 mol-1です。モル数が大きいほど、構成要素(分子の数、イオンの数など)が多いと言うことになります。
この定義が難しい人は、「ある物質を、その分子量グラム集めると、1モルになる」と覚えましょう。そこから、「ある物質のモル数を求めたいときは、その物質の重量を分子量(モル質量)で割る」とわかれば使える知識になります。

体の中で物質は、粒子や分子、イオンなどの形として働いており、その際多くの場合で決め手となるのは、総重量ではなく、モル数あるいは構成要素の個数なのです。

食塩(塩化ナトリウム)の分子量は58.5です。
砂糖(ショ糖、スクロース)の分子量は、グルコース(180)とフルクトース(180)を合わせた量、360です(正確には、結合部分で水1分子が失われるので360-18=342ですが、気にしないで行きましょう!)。
食塩の分子量を約60とすると、砂糖はその6倍の分子量を持っていることになります。

ここで必殺技「モル数」を考えましょう。
食塩1gは1/60モル、砂糖1gは1/360モル、となります。どちらがどれくらい多いでしょう。1/60が1/360の6倍多いですね(図では同じ重量に含まれる粒子の数を簡単に示してあります)。

この2つの物質を水に溶かすと、食塩は「100%解離する」とテキストにあるとおりNa+、Cl-のイオンに分離します。砂糖は、グルコースとフルクトースがグリコシド結合で共有結合しているので、解離はせず、そのままの形で水に溶けています。
味覚には、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味の5種類があり、それぞれ専用の受容体が舌の上に存在しています(辛味は、痛覚の一種で、味覚から外されました)。Naイオンチャネルの一種がNa+をとらえると、塩味として知覚されます。7回膜貫通のG蛋白共役型受容体がショ糖やマルトースなどをとらえると、甘味として知覚されます。
つまり、味として知覚されるためには、受容体にイオンや分子が結合する必要があり、そこに結合する構成要素の数が多いほど、受容体からシグナルがたくさん出て、強い味と知覚されるのです。従って、同じ重量なら、砂糖より塩の方が6倍強く感じるというわけです。

実際に料理を作っている際にも、このことは実感できます。
味付けをするとき、塩はひとつまみ足すだけでもかなり味を決定づけますが、砂糖はひとつまみでは到底味に変化をもたらすことはできません(砂糖に必要なのはスプーン何杯のレベル)。お菓子を作るとき、砂糖をどれくらい測って入れますか?たとえばショートケーキ一片には砂糖が28g程度入っています。塩をそんなに入れてしまったら、大変ですよね。

砂糖と塩、白い粉末で似てますが、味が違うだけでなく、物理化学的な性質や構造がまったく違うものなんだ、と認識して使って下さい。

(医科栄養学研究室)

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