人間栄養学部・人間栄養学科 │ 聖徳大学

毒と医療

23.06.07

春🌸になると、子どもの頃どこかの生垣に咲いていたツツジの花の蜜を吸ったことを思い出します☺️。ホトケノザの花も甘いんですよね🤔。ですが、それに似たムラサキケマンには毒があるので気をつけないといけません。

人間が食べると、腹痛や痺れやひどい時には死に至ることもある毒ですが、これが意外なところで役に立っているというお話です👨‍🏫

  • ボツリヌス毒素☠️

ボツリヌス菌が産生するタンパク質の毒素で、自然界の毒素としては最強です。食中毒の原因ともなり、神経系に麻痺をもたらします。ボツリヌス菌は空気を嫌う性質があるため、瓶詰めや真空パックなどの食品で増殖する可能性があります(1歳まではハチミツを食べさせないように、と言われるのはこのためです)。

こんなに強力な毒がなんと、「小顔整形」に使われています。もともと斜頸(首が片方に傾いた状態)の症状軽減のために応用され、ワキガの治療やシワ取りにも保険適応があるのですが、プチ整形にも使われます👨‍⚕️。

顔の輪郭の横に張り出した「エラ」の部分、下顎骨に咬筋が付着した部分にこれを使うと、筋肉が麻痺して次第に筋肉量が少なくなる、という「廃用萎縮」の現象を利用しています。もちろんきちんと計算されたごく微量を使用していますよ(欲張ってたくさん打つと口が閉まらなくなるのでご用心💉)。

  • アメリカドクトカゲ🦎

名前の通りアメリカ合衆国のアリゾナ州やメキシコなどの乾燥地帯に生息するトカゲで、25〜50センチほどのなかなか強烈な姿をしています。唾液腺に毒を産生する分泌腺を備えていて、噛まれると激しい痛み、腫れ、めまいなどを起こし、ひどい場合には心不全やアナフィラキシーショックを示すこともあるそうです。

アメリカドクトカゲ Wikipediaより

1992年アメリカのジョン・エン教授が、このドクトカゲの唾液腺からとあるペプチドを発見し、エキセンディン-4と名付けました。このペプチド、なんとヒトのGLP-1というペプチドと53%のアミノ酸が同じ配列で含まれており、GLP-1よりも強力で長く作用することがわかって、一気に薬への開発につながりました。なぜならGLP-1というペプチドは、インスリンというホルモンの分泌を増やしてくれる、糖尿病の治療薬💊として注目されていたからです。

現在、このエキセンディン-4の配列を元に人工的に合成された薬が作られ、患者さんに処方されています。またこの薬には糖尿病に対する治療効果以外に、食欲を抑制してくれるため、体重が落ちるといううれしい副作用もあります😊。

  • チョウセンアサガオ(別名:曼荼羅華)🌺

最後は歴史的なお話です。日本の外科手術にとって画期的な「麻酔薬」を開発したのは、華岡青洲(はなおか・せいしゅう)という人で、1804年のことでした。

実は三世紀ごろから中国ではチョウセンアサガオ(強力な幻覚作用を示すヒヨスチアミン、スコポラミンなどを含む)を麻酔薬として使っていたことは知られていたそうですが、どのように使うのか、配合などは全く記録としてなかったようです。華岡青洲は20年もの歳月をかけ、チョウセンアサガオを使った「通仙散(つうせんさん)」の開発に成功し、外科手術(乳がんの切除術)を成功させました✨。開発にあたっては、動物による実験だけでなく、実母や妻の協力による人体実験も行ったことは有名です✍🏻。

日本麻酔科学会のロゴマークはこの花がデザインされています🌺。

毒にも薬にもならぬ(害もなければ効能もないような、あってもなくてもよいような存在のこと)どころか、医療の分野では「毒」はかなり貴重なのです✨。

(健康・医学研究室・大久保)

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