短期大学部 総合文化学科

【コラム/文芸】虎眼を点ず

22.01.10


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寅年に因み、画から飛び出した虎の話を『南総里見八犬伝』から紹介しよう。

ある秋の時候、薬師院村で絵馬を売りながら口に糊する竹林巽(たかばやしたつみ)の許に一人の美童が現れる。巨勢金岡(こせのかなおか)の描いたという虎の掛軸を携え、薬師十二神の内、第三の寅童子に宿願があり、虎の画額を献じたいから、これを参考に描いてくれという。見れば、瞳のない白目のままの虎である。

この画額は、寛平2年に舶来の虎を百日間観察して金岡が描いたものであった。怒る姿を描きたいとわざわざ棒でつついて怒らせたものだ。ところが、金岡は描いた画に瞳を入れなかった。献上した宇多天皇にその理由を問われると、「先に描いた馬すら夜中に抜け出して萩を食ったと聞く。馬でさえこんな奇怪なことがあるのだから、外国で百獣の王とされ、猛威が狼に百倍するという虎が、もし抜け出ることでもあれば、人を害する不測の禍を齎すに違いないと怖れたからだ」と申し述べた。その時、檻の中の虎は、金岡の筆に精神を奪われたのか、すぐに死んでしまったという。

この画額を巽に預ける際、決して瞳を点じてはならぬと美童は戒めた。その後、巽は難波へ出奔し、画師巽風(さんぷう)と名を変えて将軍足利義政にこの画額を売り込もうとするのであるが、そもそもの出自や人物、大酒ゆえの病気、薬師に対する信心、平癒後の美童との関わり、殺人などの悪事については省略する。

金岡の画額を携えて難波に出た巽は、京の骨董屋余市の便宜によって、まず管領細河(川)政元の内覧に画額を供することとなった。政元の邸には、八犬士の随一と称えられた犬江親兵衛仁(まさし)が強引に長逗留させられている。文武諸芸・和漢の書物に通じた親兵衛に政元は金岡の虎画にまつわる奇怪な言い伝えの真偽を問う。親兵衛は漢籍から多くの事例を引き、絵から実物が飛び出すことはあり得ないことではないと説いた。

それでも、幻術を疑う政元は、既に画額が金岡の真筆と鑑定されていたにもかかわらず、巽風に筆を押し付け、瞳を点ぜよと命ずる。固持する巽風に対して、奇態が現れて真の虎と変じても、多くの武士を揃えているから駈け止めてくれるはずだと取り合わない。

致し方なく巽風が瞳を書き入れるや否や、さっと吹く一陣の風が掛軸を翻すと、白額斑毛の虎が突如出現する。修羅場を現じた虎は、巽風の首を銜えたまま、身を躍らせつつ高塀を飛び越え、行方知れずとなってしまう。

さて、巨勢金岡の描いた虎にまつわる記録は伝わっていないようである。恐らく馬琴の創作であろう。馬が画中から抜け出た話なら、『古今著聞集』巻十一(書画第十六)にある。金岡が襖に描いた馬が夜になると抜け出て萩を食うため、勅定によって画中の馬をつなぎとめた体に筆を加えたところ、抜け出すことが止んだ。また、壁に描いた馬が夜な夜な近辺の田を荒らすため、馬の目を抉り取ってしまうと、田を荒らすことがなくなったというのである(岩波大系本『古今著聞集』310ページ)。

『和漢三才図会』巻第七十五「八上郡」の条に巨勢金岡の馬の伝説が取り上げられ、寸評にこうある。

「思うに、金岡は古(いにしえ)の名画工であり、絵馬が毎夜出て稲草を食う説が古から人の口にのぼる。絵の多くは仏像あるいは馬・鶏の類で、たとえば怪異をなしても害はない。もし好んで鬼神・竜虎の類を画けば大きな害があるだろう。筆勢が生きているもののようであるので、人が誇張して言ったに過ぎない。」(平凡社東洋文庫『和漢三才図会13』149ページ)

絵馬は、飛鳥時代(7世紀)の遺物が発見されているそうだから、編者寺島良安のいうとおりなのであろう。

それにしても、小説と知りながら、「寛平2年」などとまことしやかに始められると、確かな出典があるかのように思えてしまうから、油断がならない。

画中から飛び出す虎に関わる一連の物語、それを退治する親兵衛の縦横無尽の大活躍は、巻二十六第百四十一回から巻二十八第百四十六回に展開されている。京都に派遣された親兵衛がこれを期にようやく政元の許から脱出するに至るまでの描写は、まさに巻を措くあたわずだ。エンターテインメントとしてぜひ楽しんでいただきたい。(G)

※写真は国立国会図書館デジタルコレクションより

 

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